くくのち通信:講座レポート

いのちの暴走(2) (2011/5/21) 講座レポート

posted on 2011/05/30

三回シリーズ「いのちの暴走―ナチ農相ダレーの思想と実践」その第二回、「ダレーのその時代(2)  ナチ党農政局長から有機農業の支持、そして戦後まで」のレポートです。講座が行われたのは2011年5月21日、講師は藤原辰史さんです。

第二回目の講義は、東日本大震災と原発事故という大変な事態が起った後、5月に行われました。前回にも増して、さらに幅広く社会の現状を把握し、未来に対する提言を深く強く意識しようという藤原さんの意図があふれた内容になりました。詳しいレジュメ(A4版8P)が配布されましたので、ご覧になりたい方は次回講義の時にくくのち事務局にお申し出ください。

今回の災害によって、現代社会のシステムの不具合はますます露呈されました。「食べること」の根源がおかしくなっているという現状も、その一つに挙げられます。藤原さんのご専門は農業史で、フィールドの中心はドイツです。その分野での歴史の真実を掘り深め探ることで、現代にある価値観の疑問点を明確にし、人類の未来に必要な思想の一助とする点を、再度強調されました。

農業そのものの価値転換を図ったナチズムは、その価値付けをするために膨大な数の人間を殺しました。そのナチスの農業政策に深く関与したのが、当時の農相ダレーです。

ナチスの農業政策の根幹の一つには、世襲農場法がありました。土地を売ってはいけない、買ってはいけない、分割してはいけない、担保にしてはいけないといった、市場経済から土地を切り離す特別法を作り、農民をバックアップしたのです。これは今の民法に照らすと所有権にひっかかり、法律違反となってしまいます。特別法の強引な実施は当時でも反発があり、当の農民たちからも批判が出てやがて廃止されましたが、土地の市場化に疑問符をつけたことは意味があるといえます。

一方で、ダレーはバイオダイナミック農法の支持を党員たちに訴えます。ルドルフ・シュタイナーの影響を受けた人智学徒たちが1920年代前半から、化学肥料を用いない農業を開始していました。占星学的、超自然的な面を除けば、化学肥料を批判し、農民伝承文化の尊重、手作業の重視、生態学的循環農場を形成しようとした点など、今日の有機農法につながるものです。シュタイナーは、従来の科学を批判し別の科学を打ちたてようとしましたが、それは人智学を学んだもののみに開放され、結果として、知識を持たない低所得層の民衆向けの科学にはなりえませんでした。ダレーはシュタイナー人智学には興味は持っていませんでしたが、この農法には関心を示し、支持を呼びかけるために、党同志に向けて書いた手紙が残っています。そこには、生き物の法則にかなうように、科学と市場主義を克服しなければならないといった表現が見られます。ナチスの後ろ盾である大企業に喧嘩を売るような、当時の大臣としては危険な発言だったそうです。ダレーは有機農法を支持した時点ですでに影響力は無く、やがて変人として排除されていきますが、この科学+経済批判を、現代の私たちは単なる妄想として扱うことはできません。

以上のような例からも推察されるように、ナチズムはある程度自然法則に政治をゆだねることで、資本主義の危機を乗り切ろうとしました。これは、市場中心主義と科学万能主義によって抑圧されていた、生命を解放するという一面も持ったのです。

しかし、ナチズムは、戦争準備というテンションの中でそれを行いました。新しい労働者として、また戦争に役立つために、子供をどんどん作る、再生産をするために、生命持続を目的とし、食べ物の重要性を考えました。農村こそは、健康な身体を作り、理想的、生産主義的生命観を実現させるのに恰好な場所だったのです。ダレーの有機農法支持もここに結びついていました。ナチスもダレーも、目的のためには手段を選ばないという姿勢で、自然の法則に身を任せたのであって、資本主義の道を降りる気は無かったのです。さらに「いのち」に過剰な価値をおくあまり、人間も品種改良が可能と考え、「いのち」の品質管理に手をつけてしまいました。「いのち」を「こうあるべきもの」として改善(!)しようとし、「ここにあるもの」として受けとめることをしなかったのです。「生殖」と「物質循環」の拡大は(人間の生物化)、新規市場開拓としての「戦争」に接続しています。

以上のような話題を含んだ、多岐に渡る展開の後、「食べること」と「暮らすこと」を基本にすえた生態平和社会を目指すうえで、ナチズムを反面教師とした、提言が示されました。

・  克服すべきものは何かを見誤らないために、科学と資本の関係を問うこと。
・  「選別思想」の落とし穴を避けること。
・  現状追認の自然主義に陥らず、構想力を持続し、生態平和社会の建設を意図すること。
・  生物学主義に陥らないこと。

最終回となる第三回目の講義は、藤原さんのドイツ研究滞在を挟み、近日開講予定です。
ナチスの悲惨の根源にさらに迫る内容です。どうぞお見逃し無く。
多くの皆様のご参加をお待ちしています。(植)